仕事と介護の狭間:ビジネスケアラー支援の新常識
2025/06/23
1. 「ビジネスケアラー」ってどんな人?~知っておきたい新しい働き方~
「ビジネスケアラー」という言葉を初めて聞く人もいるかもしれませんね。これは簡単に言うと、「仕事をしながら、家族の介護を担っている人」のことです。皆さんの親世代、特に40代から50代の働き盛りの人たちが、このビジネスケアラーになるケースが少なくありません。日本は今、皆さんが生まれた頃よりも、おじいちゃんおばあちゃんの数が増えていて(少子高齢化)、さらに共働きで働く家庭も増えていますよね。そうした社会の変化の中で、家族の介護が必要になったとき、仕事を辞めずに両立しようとする人が増えているんです。
かつては、家族の介護は主に家庭内で、例えば専業主婦の方が担うことが多かったのですが、今は共働きが当たり前になり、家族の形も多様になっています。そのため、多くの人が仕事を続けながら介護をせざるを得ない状況に直面しています。介護は、育児のように計画を立てやすいものではなく、ある日突然始まることもありますし、いつまで続くか見通しが立たないことがほとんどです。こうした予測のしづらさが、仕事との両立を難しくする大きな要因となっています。
「仕事は手放したくないけど、介護との両立は精神的にも肉体的にも厳しい……」と悩むビジネスケアラーは少なくなく、その結果、離職に追い込まれてしまうという現実もあります。しかし、介護は私たち誰もが将来直面する可能性のある「自分ごと」なんです。皆さんがこれから社会に出て働き始める中で、この「ビジネスケアラー」という働き方や、それを取り巻く社会の状況を知っておくことは、自分自身の将来や、周りの人を支える上でもとても大切なことです。単なる個人の問題ではなく、社会全体で支え合うべき大きなテーマとして捉えられています。
2. なぜ今、「ビジネスケアラー」が社会課題なの?~見えてきた日本の現実~
ビジネスケアラーの問題は、単に個人の困りごとにとどまらず、日本社会全体にとって大きな課題となっています。その背景には、まず「2025年問題」と呼ばれる変化があります。これは、日本の人口ボリュームの大きい「団塊の世代」と呼ばれる方々が、2025年には75歳以上の後期高齢者になることで、介護が必要な人が大幅に増える、というものです。
日本の介護を取り巻く現状データ
318万人
2030年のビジネスケアラー数推計
約9兆円
2030年の経済損失額の試算
40-50代
企業の中核を担う世代が直面
こうしたデータが示すように、皆さんの親世代である40代から50代は、企業の中で責任ある管理職として活躍していることが多く、その経験豊かな人たちが介護を理由に離職してしまうことは、企業にとっても、日本経済にとっても大きなダメージとなります。また、家族のライフスタイルも多様化しており、一人ひとりのビジネスケアラーにかかる介護の負担がさらに大きくなることも予想されています。場合によっては、大人が担うべき介護を10代以下の子どもが日常的に行う「ヤングケアラー」が増加する可能性も指摘されています。
このように、ビジネスケアラーの問題は、私たちの生活の身近なところにあり、日本の社会や経済の未来にも深く関わる、誰もが向き合うべき社会全体の問題なのです。
3. 「仕事と介護」両立のリアルな苦労~見えにくい負担と葛藤~
ビジネスケアラーが直面する課題は、多岐にわたりますが、特に「肉体的・精神的な負担」と「経済的な損失」の2つが挙げられます。
まず、肉体的・精神的な負担についてです。仕事も介護も、どちらか一方だけでも心身に大きなエネルギーを必要とします。ビジネスケアラーは、その両方を同時にこなすため、負担はさらに大きくなります。介護は、育児とは異なり、いつ始まるか分からないだけでなく、いつ終わるか見通しが立たないことがほとんどです。この「終わりの見えない不安」は、介護者の心を深く疲れさせてしまう大きな理由の一つです。十分な休息が取れないことで、疲労が蓄積し、仕事に支障が出てしまうこともあります。頭痛やめまい、嘔吐などの体調不良に悩まされたり、精神的に追い詰められてうつ病を発症するケースもあります。
次に、経済的な損失です。心身の疲労が限界に達し、仕事を続けることが困難になった結果、介護離職を選ばざるを得ない人も少なくありません。仕事を辞めることは、介護者自身の収入が途絶えるだけでなく、長年築き上げてきたキャリアを諦めることにも繋がります。これにより、家庭の経済状況が悪化し、介護費用の負担も相まって、金銭的な不安がさらに増大するという悪循環に陥ることもあります。
さらに、ビジネスケアラーの中には、「介護していることで今後のキャリアに影響があるのではないか」「周りに気を遣わせたくない」といった思いから、会社に介護の事実を打ち明けられない「隠れビジネスケアラー」も存在します。
このような状況では、企業が従業員の抱える介護の課題を把握しにくく、必要な支援が届かないという問題も生じます。介護休業などの制度があっても、利用しづらい雰囲気や、制度そのものの周知不足が原因で、多くの人が制度を利用せずに介護をしているのが現状です。このように、ビジネスケアラーは、見えにくい形で多くの負担と葛藤を抱えながら日々を過ごしているのです。
4. 介護は「社会を支える」大切な仕事~未来への貢献~
介護は、一見すると家族や個人の問題と思われがちですが、実は社会全体を支え、未来に貢献する非常に大切な仕事です。ビジネスケアラーが仕事をしながら介護を続けることは、単に自分の生活を守るだけでなく、様々な形で社会に貢献しています。
まず、ビジネスケアラーが就業を継続することは、社会の労働力を維持することに直結します。高齢化が進む日本では、働く人の数が減っていく中で、一人ひとりの労働力がますます貴重になっています。特に、ビジネスケアラーの多くは、企業の中核を担う40代から50代のベテラン層です。彼らが培ってきた知識や経験は、企業にとってかけがえのない財産であり、そのスキルを社会で活かし続けることは、経済全体の生産性を保つ上で不可欠です。介護離職が増えれば、社会全体の人材不足がさらに深刻化し、企業の競争力も低下してしまいます。ビジネスケアラーが働き続けることは、この負のスパイラルを断ち切り、社会の活力を維持する上で極めて重要な役割を果たしているのです。
次に、介護は「ケア」の価値を社会に広めることに貢献します。人間が生まれ、成長し、老いていく中で、誰しもが誰かの助けを必要とする時期があります。介護は、そのような状況にある人々の尊厳を守り、質の高い生活を送るためのサポートをする、人間としての基本的な営みです。ビジネスケアラーがその役割を果たす中で、介護の重要性や大変さが社会に認知され、共感の輪が広がることで、より支え合い、多様性を尊重する社会づくりが進みます。これは、将来、皆さんが介護を必要とする立場になったときに、社会全体が温かく支えてくれる基盤を作ることに繋がります。
さらに、介護の経験を通じて得られる個人の成長と社会への還元もあります。介護は困難なことばかりではありません。家族との絆を深めたり、問題解決能力や調整能力を身につけたりする機会にもなります。こうした経験は、仕事の場でも活かされ、より人間味あふれるリーダーシップや、多様な視点を持った働き方に繋がる可能性があります。介護の経験を持つ人が職場で増えることで、互いに助け合い、柔軟な働き方ができる職場環境が自然と生まれていくことも期待できます。
このように、ビジネスケアラーの皆さんの働きは、経済を支えるだけでなく、人間的な温かさや支え合いの心を社会に広げ、持続可能な未来を築くための大切な貢献なのです。
5. 企業と国が動き始めた!~安心して働ける環境づくり~
ビジネスケアラーが抱える問題が個人だけでは解決できない社会課題であるという認識が広がり、国や企業は仕事と介護の両立を支援するための様々な取り組みを始めています。これは、ビジネスケアラーの皆さんが安心して仕事を続け、能力を発揮できる環境を整えることで、経済的な損失を防ぎ、社会全体の活力を維持するためです。
国の取り組みとしては、まず経済産業省が2024年3月に「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を発表しました。これまでの介護支援が労働者の権利保護の視点から語られることが多かったのに対し、経営課題として明確に位置づけられた点が大きなポイントです。
さらに重要な変化として、2025年4月1日からは「育児・介護休業法」の改正が段階的に施行されます。この改正により、企業にはいくつかの義務が課せられます。
- 個別周知・意向確認の義務化: 従業員に介護休業などの制度を個別に説明し、利用の意向を確認することが義務付けられます。
- 雇用環境整備の義務化: 介護に関する研修の実施や相談窓口の設置などが義務付けられます。
- 介護休暇の取得要件緩和: 勤続6ヶ月未満の従業員も介護休暇を利用できるようになります。
- 柔軟な働き方の推進: 介護のためのテレワーク導入などが企業の努力義務となります。
企業の取り組みも進んでいます。今後は、リモートワークやフレックスタイム制の導入など、従業員が働き方を選択できる仕組み作りが求められます。また、従業員が一人で悩みを抱え込まないよう、相談しやすい環境を整えることも重要です。介護保険制度や地域サービス、介護ロボットなどのテクノロジーについての情報提供が進めば、介護者の負担を大きく軽減できます。
これらの取り組みは、ビジネスケアラーが「隠れる」ことなく、会社に介護状況を打ち明け、必要な支援を受けながら、安心して働き続けられる社会を目指すものです。
6. 「働くやりがい」を諦めない!~仕事と介護を両立するヒント~
「介護が始まったら、仕事を辞めるしかないのかな?」と不安に思う学生もいるかもしれません。しかし、現在の社会は、仕事と介護の両立を可能にするための様々な支援が整いつつあります。そして、ビジネスケアラーにとって、「働くこと」は経済的な安定だけでなく、精神的な支えや自己肯定感、社会との繋がりを保つ上で非常に大切な「やりがい」の源にもなります。
仕事と介護を両立し、「働くやりがい」を諦めないためのヒントをいくつか紹介します。
早めの「情報武装」
介護保険制度や企業・地域の支援制度について事前に調べておくことが最大の武器になります。地域の「地域包括支援センター」などを知っておきましょう。
一人で抱え込まない勇気
家族、職場、地域の支援を上手に「巻き込む」ことが大切です。上司や人事担当者に早めに相談しましょう。
「働き方」の柔軟性を活用する
リモートワークやフレックスタイム制、時短勤務などを活用し、介護に必要な時間を確保しましょう。
介護支援テクノロジーの活用
移乗介助ロボットや見守りセンサーなど、負担を軽減する技術を上手に取り入れましょう。
プロのサポートを頼る
精神的に疲れたときは、カウンセラーやケアマネージャーといった「プロ」に頼る勇気を持ちましょう。
介護は長期にわたる道のりですが、一人で抱え込まず、社会のサポートを最大限に活用し、自分の「働くやりがい」を大切にしながら、前向きに両立を目指すことができる時代になりつつあります。
7. 学生の皆さんへ~未来の社会を創るためにできること~
ビジネスケアラーの問題は、皆さんが将来直面する可能性のある、身近な社会課題です。しかし、同時に、皆さんの世代が新しい視点と行動で、より良い社会を創っていくチャンスでもあります。未来の社会を担う学生の皆さんに、今からできることをいくつか提案します。
- 「自分ごと」として関心を持つ: 40代以降に親の介護に直面する可能性を知り、若いうちから関心を持つことが社会を変える第一歩になります。
- 介護や支援制度の基礎知識を学ぶ: 介護保険制度や介護休業・介護休暇といった制度の知識を身につけておきましょう。
- 家族と「介護」について話す機会を持つ: 「どんな介護が理想か」など、親の意向を事前に共有しておくことで、いざという時のトラブルを回避できます。
- 介護支援に積極的な企業を選ぶ視点を持つ: 柔軟な働き方や相談しやすい環境が整っている企業は、皆さんが長く安心して働き続けられる会社であると言えます。
- 社会貢献活動に参加する: ボランティアなどを通して、高齢者支援や介護の現場に触れてみることも良い経験になります。
- 福祉・介護分野への関心を広げる: 介護専門職だけでなく、テクノロジー開発や企業の介護支援担当など、皆さんのスキルを活かせる様々な道があります。
皆さんの若い世代が、ビジネスケアラーの問題を「他人事」ではなく「自分ごと」として捉え、積極的に関わることで、日本はもっと誰もが働きやすく、支え合い、安心して暮らせる社会へと進化していくはずです。未来の社会を創るのは、今を生きる皆さん一人ひとりの行動です。