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 学生取材レポート 

学生が現場へ赴き取材レポートおこなう本企画!今回は2名の女子学生が『社会福祉法人愛川舜寿会ミノワホーム』へ伺い『経営企画室長 馬場拓也さん』のご案内のもとホーム見学・インタビューを遂行しております!

『特別』ではない本当の介護

特別養護老人ホームは高齢化が進むにつれ、需要が高まっています。入居待機者は日本全体で52万人(2014年時点)、今回取材したミノワホームだけでも100人いるそうです。それだけの数の待機者が解消されない理由は、受入施設の数と人材の不足にあります。逆風と言われる一方で未だ開拓の余地があるともいえる特養の現状と展望について話をうかがいました。


―『特別』ではない

緑文字:馬場拓也氏談




・「特養と言っても別に『特別』ではないですよ。(笑)」

そう馬場さんは仰いました。

「特別養護老人ホームっていう呼び方はあんまり好きじゃない。特別なことができるかっていうと、できるはずがなくって。例えば極端な話、転ぶなんてことは人間として当たり前のことなんだけど、転ばせないようにしてしまうことが特別を作っちゃうようなところがあって、そういう意味では特別養護だよね、みたいに冗談で言ったことはあります。特養では食事の記録という栄養管理があるので食事を摂りたくない時には食べない、というような我々では普通な事でも悪とされてしまうこともあります。どんな時でも食事をとることがその人にとっての幸せなのかなって考えたら、そこはすごく難しいですよね。」

この現状を打破するのは現場のスタッフではなく経営者の役目だ、とした上で、特養という人生の終末期を迎えている人たちと相対する場所だからこそ、その介護に対する向き合い方が福祉全体の基準となる、と変化の重要性を強調されていました。

馬場さんは何が介護の『正義』であるかを常に模索しながら、少しでも理想に近づけるように日々行動をされているように強く感じました。カメラが趣味のご利用者が撮影した写真や掲示物も沢山展示し、職員もオリジナルでデザインされた鮮やかなピンクやブルーのTシャツを着用するなど、施設内の“彩り”を増やすことで明るく華やかさを演出されていたり、スマホ端末によるICTの導入も年始からスタートしていらっしゃいました。


―利用者のための『正義』

「現在取り組み始めていることの一つは、ご利用者のプライバシーについての再考です。これまでは見守りが効くことを重視していますが、一方では丸見えであり、落ち着かない環境であるともいえます。一目で状態を把握できる環境は効率的ですが、それがスタンダードになってしまうと、利用者が『モノ化』してしまうという懸念があります。」

「廊下を歩いてた時、あるおばあちゃんがベッドの上でセーターを脱いで肌着になるところに遭遇したことがあります。廊下から丸見えなんですよ。おばあちゃんは車いすだからカーテンも閉めにくい。いつもにこやかな人なんだけど、パッて僕と目があった時にちょっと目を逸らしたんですよね。肌着みたいな格好になる瞬間を僕に見られるってことが、恥ずかしいというか。その時にこれはやっぱりよくないなって思いました。恥ずかしいっていう感覚とかを、ハコ(施設環境)でカバーできてないっていうのは、どんなきれいごとを並べても駄目だなって。今年はこれを改善する事に取り組んでいきます。」

「もうひとつは職員の意欲向上、そして仕事における評価制度の構築です。方法は職員同士がお互いに感謝の言葉を書いたメッセージカードを送りあうやり方を考えています。感謝されることは意欲向上につながると感じ、それの見える化をはじめました。」

「例えば、ある厨房職員さんが腱鞘炎になったにもかかわらず、翌日1人で朝番だったとした場合、ちょっと早く行って手伝ってあげた方がいいなと考えた若手職員が早く来た。そうすると、その職員はそれに対する感謝のメッセージを書くわけですよ、気を効かせて早くきてくれてありがとうって。そういうことの『見える化』をしたいと思っています。」

「運用は、ポストのようなものを設置して入れてもらう。そしてそれを集計し最も多く周囲から感謝された職員や、また人に多くの感謝を伝えた職員を表彰します。介護の仕事は数的な評価が困難な為、成果の基準が不明確なことも問題であると思っています。いろいろ手段を検討した結果、仲間へ感謝を贈ること、感謝されることが仕事の一番の評価なのではと思っています。カードを贈り合うことでお互いに気持ちの交換ができる上に、当事者間だけではなく、第三者もそれを眼にでき今まで見えなかった職員間の感謝の交換が見えることで、正当な評価に繋げられるのではと考えています。」




ランキングは全体の公開をされるそうです。自分の立ち位置を客観的に捉えてもらうことで、受け身で消極的な仕事をしてしまうことを防ぐ意図であるとの事です。

「ご利用者にとってより良い生活環境にする為に新しい取り組みをやろうとしている人に対して、『それって現場の負担じゃないですか?』みたいに言ってしまうネガティブな意見も時には上がってきます。それって悲しいですよね。それでは何も生まれない。考え方がクリエイティブじゃないっていうか。『ネガティブの反対はクリエイティブ』って間違っているのかもしれないけど、感覚的にはそういう感じです。無駄な仕事を増やす必要はないんだけど、必要だと思えることはやっぱりやっていくべきだと思います。但し、自分のためといった独りよがりなものであってはならない。ご利用者のため、共に働く皆のため、地域のためであることが条件ですが。」

 
―『コミュニティ』として
馬場さんはミノワホーム自体の環境の改善に力を入れるだけではなく、地域も巻き込んだ変化も生みだそうとされています。一つには、施設前のエリアを人々が集える場所にされるとの事です。背景には、近隣地域の商店のベンチなどに代表される人が自然に集まれる場がなくなってしまったことがありました。馬場さんは社会福祉法人という利益を追求しない立場だからこそ、コミュニティを再構築する際のハブ的な役割を担えると仰っています。

「コミュニケーションをおこなえる場、お互いが見守りあえる地域コミュニティを作るための場所が必要だと強く感じています。それを特養の庭で実現できたら素敵ですよね。集まって会話したり、天気の良い日は一緒に昼食を食べたりできるような空間。そしてそれはご利用者だけではなく、誰でも使える場所であり、職員も使えます。ご利用者や職員と接することで元気な高齢者も将来のことを考えて受容することにもつながっていき、将来を準備すること、如いては安心にもつながっていくと思います。詳細はまだ企業秘密ですが(笑)。」

こういった取り組みがいたるところで進めば、生活の中で自然に介護に対する理解や相互共感を得られる社会になるように思えてなりません。



―『クリエイティブ』に
敬遠されることも多い福祉業界ですが、変化の時期に来ているそうです。特に、福祉業界の常識に染まっていない若手の発想力は変化の原動力となりえます。

「この仕事は今が本当に面白い時期だと思います。悪いニュースも多く、逆風な状況かもしれないけど、どんな会社も、仕事も、確かなものなんてなく、なんらかの危険性をはらんでいる。そんな中で、この社会福祉の領域は大きな変革期であり、クリエイティビティ、新しいアイデアをいかんなく発揮できる、勝負できる仕事です。捉え方次第なんです。周囲の情報だけで判断する前に是非ポジティブに、クリエイティブにこの仕事を捉えて考えていただきたい。もちろんその為には受け身ではなく、こちら側が”いつでも関わってもらえる環境“をつくることが大事。本当にそう思います。」







「現場突撃インタビュー企画」
当日アポなしで取材をお願いし快く仕事の合間でお時間をいただきました!





高瀬雄志さん?

2004年に社会福祉法人愛川舜寿会ミノワホームに入社。介護福祉士、社会福祉主事任用資格、幼稚園教諭、保育士資格などを保有。入社後はデイサービスでの介護職に従事。その後、ショートステイ、訪問介護、そして現在は特養の現場で司令塔として活躍している。人生の師は上島竜平と語るなど生粋の芸人(?)でもある。

―この仕事(高齢者施設勤務)を選んだ理由は?

「子供の頃、祖母が寝たきりで母親が介護をしていましたが、自分はほとんど役には立てませんでした。その時に少しでも手助けができればと思ったことがきっかけで、専門的に学ぶために高校、専門学校に通い現在に至っています。」

―ミノワホームを選んだ理由は?

「一番の理由は、家から通えたことです。それ以外は、何だったかな…(笑)。」

―ミノワホームの雰囲気は?

「色々な考え方を持っている人が多い。というよりはそれが主張できる環境であるといった雰囲気です。そしてそれぞれがお互いの考え方、行動を尊重しながら仕事をしています。他の施設で働いたことがないので比較は難しいですが笑顔が多いホームであると感じます。若手も多く皆が本当に頑張っています。」

―仕事を通じての率直な感想は?

「こんな言い方をしていいのか・・おじいちゃん、おばあちゃんは本当にかわいい!一緒に過ごすだけで幸せを感じられる。そして自分が知らない昔の事、地域の事を教えてくれる物知りな方ばかりで、本当に尊敬できる方ばかりです。一人一人が私の教科書であり、癒しを与えてくれています。」

―日々のモットーは?

「与えてもらってばかりではなく、自分も何かを提供したい。それで考えているのが、接するおじいちゃん、おばあちゃんを一日一回でも笑顔にしたい!」

―辛いことはどのような事ですか?

「どんなに元気であっても亡くなるまでの過程を見届けなければならないことです。だからこそ自分が接する時間は楽しく過ごしていただきたい。」

―楽しい時間の共有の為におこなっていることは?

「休日は人生の師である上島竜平さんのDVDを見て笑いを勉強しています(笑)。冗談ではなくて本当に純粋に人を笑わす才能を持っている人だと思うので。そして筋トレ等もおこなっています。この仕事は体力勝負な局面もあり、体が資本でもあるのでできるかぎり鍛えるようにしています。」

―充実感を得られるのはどのような時ですか?

「自分の行動に対してありがとう!といってもらえた時です。それはご利用者、ご家族、同僚など色々な方から頂ける言葉で、この仕事は本当にそれが多い仕事であると感じています!」

―今後の目標は?

「どのような仕事、立場になっても皆を笑顔にできる存在であり続けたいと思っています。そして日々の仕事・役割を全力で頑張り、そして皆から学び、お互いが助け合うことでミノワホームをもっともっと良くしていきたい!と思っています。」

最後に上司である馬場さんよりコメントを頂いております。














「彼は本当にプロフェッショナルであり優秀なスタッフです。仕事の為の体づくりや勤務前のストレッチ、勤務後のメンテナンス等も誰よりも入念におこなっています。そして人は時に気分に左右されることもあると思いますが、彼はいつも同じテンションで仕事に取り組める人物であり、だからこそ彼の周りは常に明るく、楽しい空気で包まれています。そんな彼にはネクストステージで今以上に後輩の育成や組織として上に立ってもらえるような人材になってもらいたい。彼は組織に欠かせないリーダーになりえる人物であると思っています。まぁ、かなりの天然ですけど(笑)。」?

―取材を終えて

山中 智恵 上智大学法学部 【取材・執筆】
取材をさせて頂いた中で、特養に関してもそうですが、要介護の方に対するイメージが変わった、というのが正直な印象です。訪問前には要介護の方にどう接すべきか、と勝手に壁を感じていたのですが、実際には向こうから笑顔で話しかけてくれましたし、私が予想していたよりも『普通』の方々でした。その人たちが終末の期を『普通』に過ごせるよう、福祉の在り方を変えていかなければならないと思います。

その変化のひとつとして、介護業界に関わる人たちだけでなく、介護に直接関わらない人にも要介護の方々と自然に関われるコミュニティの形成が必要なのではないか、と考えます。明確な線引きはありませんが、現在は介護の現場と周辺の地域社会がどこか隔絶されているように感じます。私のように、要介護の人とちゃんと接した経験がないからこそイメージが先行してしまう方も多いでしょう。そのせいでネガティブな印象ばかりが残ってしまうことも、人材が集まらない原因としてあるのではないでしょうか。

中川 結菜 上智大学外国語学部 【取材・構成】
一日ミノワホーム、そして馬場さんを取材させていただいた中で私が一番感じたことは働く人の愛情とサービス精神です。

インタビューの中で馬場さんは経営者として自分がやらなければいけないこと、考えていることを話してくださったのですが、それらの発想は利用者さん、そして一緒に働くメンバーへの愛情があるからこそ思いついたことだとわたしは思います。また、馬場さんのどうしたら利用者さんが生活しやすくなるのか、どのようなことをしたらミノワホームでも時間を楽しんでもらえるのかという考え方はサービスに詳しい馬場さんだからこそのアイディアであると感じました。

特別養護老人ホームをもっと学生に知ってもらい、就職先の一つとして考えてもらうことでもっともっとクリエイティブな発想で盛り上げていくことができると私は思います。