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 学生取材レポート 

サ高住「銀木犀」から学ぶ新たな社会

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銀木犀_西新井_ライトアップ写真

高齢者が急増する近年、様々な高齢者サービスが登場している。その中でも、サービス付き高齢者住宅(以降「サ高住」)の銀木犀は“高齢者が元気になる場所”として大きな注目を集めている。話題の裏にはどんな工夫があるのだろうか?

 

理はしない 青文字:銀木犀経営者:下河原氏談


多くの高齢者施設では、玄関に鍵を掛ける。認知症の人が外に出て行っては危ないからだ。“徘徊”を想定した安全策として、当然ではある。

しかし、銀木犀は入居者を管理しない。玄関も鍵を掛けないそうだ。「出ていかないんですか?」と聞くと「出ていくよ」と返された(笑)。それでも自分の居場所があるとわかると、認知症の人が出て行ったとしても帰ってきてくれるようになるという。

「世間の人は、高齢者が出て行ってしまうと“徘徊”と呼びますけど、僕たちにとっては“お散歩”ですから」

管理しないのは、鍵だけにとどまらない。下河原氏は、続けて次のように言った。

「僕らが入居者の皆さんにどうこう言うなんておかしいでしょ。だから、うちでは食事管理も極力しない。銀木犀の食事は味が濃いんです(笑)」



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この言葉には私も驚いた。しかもお酒も飲めるという。銀木犀はあくまでも住宅。食事にまで口出しする権利はないと考えているのだ。“好きなものを食べていた方がよっぽど健康的”と言われてしまうと、何も言い返せなかった。

高齢者の生活から自由を取り上げる権利が、誰にあるというだろう。言われてみると、銀木犀の姿が当然あるべきものに感じられてしまった。

 

 

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会話も“同じ目線で”


係をつくる
多くの認知症患者は不安を抱えている。自分の話と相手の話がかみ合わないとき、話を聞き流されたとき、“自分はおかしくなってしまったのではないか”と思うのだという。自分の周りの人間に安心できなくなってしまう。

銀木犀スタッフは入居者皆に気を配り、各人をしっかり認め、理解するよう努める。そして入居者同士をつないであげる。一人の入居者と話していても、さりげなく近くにいるもう一人を会話に引き込むのだという。

「介護と業務は違う。だから介護にはスタッフひとりひとりのクリエイティブ能力が必要なんです」

“目が合った入居者とは、とことん付き合う”が、銀木犀スタッフの信条だそう。臨機応変に対応しなければならない仕事は、クリエイティブの宝庫になっている。

入居者同士の関係は良好で、それぞれの部屋を行き来して頻繁にお茶会が開かれるそうだ。スタッフの工夫で生まれた人間関係は、入居者同士の間で生き続ける。


 

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銀木犀_鎌ヶ谷_日常生活風景


域に生きる
銀木犀は地域に開かれている。西新井大師の銀木犀では、建物の一部が駄菓子屋になっている。店番をするのは入居者のAさん。駄菓子屋の店番をするうち、歩くのに歩行器を必要としなくなったそうだ。店には毎日たくさんの小学生が訪れる。Aさんにとって、子供たちと接するのが大きな楽しみになっているそうだ。

「別に駄菓子屋で利益を出そうとはしてないです」

子供が10円のお菓子を毎日買いに来たからと言って、上がる利益はたかが知れている。下河原氏には別の狙いがあった。

「地域の皆さんに知ってもらうため。それから『最期は銀木犀で』と思ってもらえるように」

子供が小学校に行くように、将来の夢を持つように、地域住民のライフプランの中に銀木犀は入り込む。昔から見知った空間で安心して老後を過ごせるなら、それ以上のことはないだろう。銀木犀は地域の重要な役割を担っている。





特別インタビュー   
銀木犀 経営者 下河原 忠道氏​

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―銀木犀をやっていて、どういうことに一番やりがい感じますか?

「ずっと満室経営ができているときかな(笑)。僕は経営者なので、基本的には“経営”をしているわけです。入居者たちが楽しそうに暮らしている姿を見ると、「よしよし」とは思いますが、「すべては入居者の幸せのため」と言ってしまうと少し嘘になってしまうと思います。」
 
―でも、銀木犀の入居者の皆さんは皆幸せそうですよね。

「入居者たちが“生きる役割”とか“やりがい”みたいなものを持てるかどうかが、これからの高齢者住宅には必要だと考えています。本当に入居者のためを考えないと、利益にも繋がりません。ビジネスとして、入居者の幸せをつくっているんです。」
 
―福祉事業がビジネスになってしまうことについて、抵抗感を持つ人もいると思います。“ビジネス”という点に関して、下河原さんなりのこだわりはあるのでしょうか?
 
「僕は“持続可能な社会”が望ましいと考えています。年々、日本の社会保障費は膨れ上がり、ついに40兆円を超えました。いつまでも社会保障費が潤沢にあるという時代では、もうないんです。だからこそ、社会福祉法人にはできない、民間の知恵を活かした事業が必要とされています。それは対価がないと持続できないものです。」
 
「介護でお金を稼ぐことは何も悪いことじゃない。お金は船を走らせていくためのガソリンのようなもの。ぼろ儲けはしちゃいけないかもしれないけどね(笑)。」
 
―ビジネスをやるにしても、どうして高齢者事業なのでしょうか? 一見、他の業界に較べてお金になりにくいようにも思えますが。
 
「日本の超高齢化社会は、いま世界でNo.1です。この時代をどう乗り越えるのか、世界中が注目しています。少ないマンパワーの中で、どれだけクリエイティブに乗り越えられるのか試されているんですね。だからこそ、僕は興味があるんです。」
 
「たしかに、多くの人が目を背けるエリアです。だけど、そこにこそビジネスチャンスがある。いつの時代だって、人が狙っていないところに目をつけて、そこを追及していった人が最終的に勝つんです。僕はいつもそれを狙ってますよ。」

 
―大学生の就職活動で、介護や福祉の業界に行きたいという人はほとんど見かけません。そういった現状の中にあって、今の若い人たちに伝えたいことはありますか?
 
「これだけ創意工夫の必要な業界で、可能性を追求していくことに関して燃えない人はいないと思う。お金には換算できない価値というものが、この業界にはあります。」
 
「大学生の皆には、もっと知識をつけて欲しい。いろんな仕事がある中で、下手な情報やイメージに惑わされずに仕事選びをしてほしい。この業界だって、ちゃんと知ってもらえれば、ブルー・オーシャンだってわかってもらえると思いますよ。」


 

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ある日の散歩風景

おわりに       
新しい時代を見据えて


入居者が元気になるサ高住「銀木犀」は、バリバリのビジネスマンによって運営されていた。下河原氏は、入居者を思いやる優しさを持つ一方で、ギラギラとしたハングリー精神も持ち合わせている。
 
お金を稼ぐことと人助けは矛盾しない。人助けだって儲けていいし、お金を稼いで人助けをしたっていい。むしろしっかり儲けを出さないと、持続可能な人助けは実現できないのではないか。下河原氏のビジネスは、地に足つけて、新しい時代を見据えている。






 

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中村 研士郎 法政大学文学部3年【取材・執筆】
将来起業することを志して様々な業界について精力的に研究中。その活動の中でソーシャルサービス領域に触れることになり、今後の日本において拡大成長する産業となることを予感。ソーシャルグッドプロジェクトに参加する。

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中川 結菜 上智大学外国語学部3年【素材構成】
社会貢献および自身の強みである国際感覚を活かせるキャリアを志向し活動中。国際化が進む日本において輸出産業にもなりえるソーシャルサービス領域に強い興味を抱き、これを学ぶためにソーシャルグッドプロジェクトに参加する。​

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